凡人数学徒の徒然

私の身の回りに起きたこと、数学の話題などをポロポロと

D2になる三次元多様体が専門の学生が読んできた本達紹介。

描こうと思った経緯

最近少々自分と違う分野を勉強しようと思って、いろんな参考書を読んだりしているのだが、専門が違うと同じことを書いていてもその書き方や本の最終目標が変わってくることがあるのが分かってきた。これはたまに、あるものを学びたいが、その本はその専門家では無い人が書いているので遠回りが起きてしまうという事態を呼ぶ。 こんな時、どの本を読めばその分野の最先端へつながっているのかを知れた方が良いと思った。遠回りすることで得られる経験は大きいものがあるが、今回はそこに目を瞑ろうと思う。あくまで、三次元多様体を研究するために読んだ本をまとめる。そして、その中でもこれを読めばある程度その分野の研究手法がわかるだろうというもの書く。

 

学部編

学部で学ぶトポロジーの主な内容は多様体論に始まり、ホモロジー理論、微分形式の理論でだいたい終わりだと思う。ホモロジーは単体、特異ホモロジーを使いその同相普遍性を示しマイヤービエトリスを使えることを目指す。微分形式はde Rhamの定理だろう。しかし、ここでは三次元多様体を研究する上で私が学部で学んだことを書く。はじめに多様体論の教科書をあげよう。

多様体

  1. 多様体の基礎」松本幸夫
  2. 多様体入門」松島与三
  3. 「四次元のトポロジー」松本幸夫

上の2つで決まりだろう。とくに1で十分であると思う。ここでの目標は陰関数定理を使えるようになること。別にリー群やリー環は知る必要はない。3に関しては多様体の感覚を得るために用いるといいだろう。さらに三次元多様体を学ぶ上で必要となるのがPLトポロジーである。PLとはpiecewise linear の略であり、区分線型であるということである。組み合わせ位相幾何とも呼ばれる。PLトポロジーを学べる教科書で新しいものが少なくなってきていることに危惧を覚える。以下PLトポロジーを学んだ教科書をあげる。

  1. トポロジー 加藤十吉
  2. 組み合わせ位相幾何学 加藤十吉
  3. トポロジー 田村一郎

上の3つをあげる。特に2つ目は網羅的な教科書であるこれを全て読めれば十分であるがそこまでする必要はないように感じる。また、1は残念ながら絶版らしい。これはなかなかいい本だったように感じる。3はホモロジーの教科書が大体参照している本である。単体複体からそのホモロジーポアンカレ双対までを書いてある。ホモロジーの教科書としてもお勧めできる。

ホモロジー理論

ホモロジーは最初にぶち当たる壁だが、まず群を知らなければいけない。これを侮るといけない。少なくとも群論準同型定理を理解して使えるくらいでなければならない。また、アーベル群の基本定理も知っている必要があるだろう。それらを網羅しているのが上述の田村先生のトポロジーであるが、それらを知っていると仮定して読むといい本をあげる。

  1. 代数的トポロジー 枡田幹也
  2. ホモロジー入門 坪井俊
  3. 位相幾何学 服部明夫

以上で十分だろう。3を読むとわかるが、この本を読めば全てを知ることができる。これを辞書のように使い、枡田先生の本で勉強するのが良いだろう。例や問題をときたいときに2を見るといいだろう。あと問題は東工大の院試や東大の院試が一通りできれば良いだろうと思う。ここで単体複体などの組み合わせ構造の勉強をしていると役に立つ。

 

微分形式に理論は三次元多様体論にはあまり持ち込まれない。しかし最近は接触構造などの研究がされていることを鑑みると少し触れておく必要があるだろう。こういうものは教養であり、大体のトポロジーの研究者は知っているものだと思う。いざという時の引き出しを持っていることが大事である。

微分形式

  1. 微分形式の幾何学 森田茂之
  2. 微分形式 坪井 俊
  3. 微分形式と代数トポロジー

上の2つは基本的なところから始めて、de Rham の定理まで勉強することができる。1はベクトル束の曲率や特性類まで扱っている良書ですが非常に行間が広く読みにくい。それに比べて、2は詳しく書いてある。2を読みながら1を読むのがいいかもしれない。先ほど述べた接触構造などの研究をする上では、微分形式の定義、de Rhamコホモロジー微分形式の積分などまで勉強するといいと思う。できれば、特性類も勉強するといいかもしれないが、これは院生になってからでも遅くはない。

 

大学院編

ここからは三次元多様体論に特化したものになるのでそれぞれについて述べていく。

 

「三次元多様体入門」森本勘治

私自身はこれさえ読めば論文が読めるようになると思う。この後に適当にHeegaard 分解やそこら辺の論文を検索して読むといいかもしれない。内容は、まず最初に基本的な定理を述べるところから始まる。ここら辺は組み合わせ位相幾何学の定理などを羅列している。証明を覚える必要はないが、知りたければ先ほどのべた教科書に全てのっている。安心して進むと、すぐにHeegaard分解についての解説が始まる。その上で圧縮不可能曲面などの三次元多様体内での切りはり技法を身に付けることができる。ここで注意したいのはHeegaard分解の解説が始まったあたりからの証明は全て読むことをお勧めする。また、命題もできれば覚えておいた方が良いだろう。参照できるくらいには覚えておくべきだろう。証明を読むことで三次元多様体をいじる方法を知ることができる。また何より、この本は、後半になるにつれて面白くなる。

 

「Lecture on Three-manifold Topology」Jaco

Seifert多様体に関する記述が上の本より詳しいのが嬉しいところである。英語であるが、院生ならこれくらいは読めなくてはいけない。また、実際に研究を始めたときにここにのっていることを覚えていると役に立つことがある。研究に詰まったときにとりあえず見てみると案外のっている時がある。

 

「3-manifold」 Hempel

上と同じで、研究しているときに参照することが多い。基本群の記述などが多くのっているが、のっていることは上の2つとさほど変わらない。しかし、三次元多様体の教科書として挙げられる代表的な本である。

 

大体上の本を読むことで論文を読むことができるようになる。しかし、これだけでは不十分だと感じる。なぜなら、近年は結び目理論と合わせて三次元多様体を考えることが多い。このため、Dehn手術や結び目の分岐被覆などの議論を知っている必要がある。ここら辺の結果などを学ぶためにちょうど良いのが以下の本達である。

 

「結び目理論」 河内明夫

日本語で三次元多様体と結び目を絡めて書いている数少ない本である。洋書では以下が非常に良い。

 

「Knots and links」 Rolfsen

大体これを見れば三次元多様体と結び目を知ることができる。結び目の分岐被覆などや、結び目の不変量、Dehn手術などのっている。

 

以上の本を読めば大体論文を読めるようになる。それで読めない時は自分で参考文献を探し読むの繰り返しである。